
老人ホームに勤めていると、様々な感情を体験することができます。
感情に度合いを付けることはできませんが、子の誕生や結婚が最大の喜びで、親や家族の死に遭遇する場面が最大の悲しみではないでしょうか?
介護付き有料老人ホームは、終の住家として入居される人がほとんどですから、死はある意味日常茶飯事です。
もくじ
老人ホームで感じる喜びは「ありがとう」と言われた時
仕事をするうえでの喜びって、めちゃめちゃ貴重ですよね。
僕自身、ずっと工場で総務職やってきましたが、人から感謝されたことなんて20年のサラリーマン人生の中で極わずか。
だって、仕事は100%できて当たり前、して当たり前。
お互い相手への感謝をもって仕事しよう!ってスローガンを掲げるけど、生まれも育ちも違う社員が集まる職場ではなかなかできるものでもありません。
でも、老人ホームでは相当の確率で「ありがとう」と感謝されます。
ちょっと具合が悪そうだと感じて声をかけたら、ありがとう。
リモコンの電池を交換してさしあげても、ありがとう。
長い長い昔話を聞いただけでも、ありがとうです。
多くのサラリーマンOLが介護職に転向してハマるのが、このありがとうの言葉ですよね?
僕自身、どんなに仕事が辛くても、ご入居者様からいただける「ありがとう」は栄養ドリンク以上ですし、そう言われる、とまた何か役に立ちたいと勝手に体が動きます。
ありがとうって言葉は、もともと「有り難し」が語源(ご入居者様談)
滅多にないことに対して感謝する。
この言葉は、やはり心の底からのありがとうであってほしいですよね。
老人ホームで感じる怒りはやっぱりワガママすぎる老害
人間歳を取るとめちゃめちゃワガママになるんですよね?
そりゃそうですよ、子育てしながら激動の時代を生き抜いてきたんですから、最後ぐらいワガママに生きさせてよ!!ってのが彼ら彼女らの主張で、職員の僕としては全部叶えてあげたい気持ち半分。
「あと数年しか生きられないんだから」ってのが彼らの口癖。
しかも悪いことに、僕の勤務先は超高級介護付き有料老人ホームです。
社長さん・元官僚・元公務員・元弁護士・元税理士、その他高級取りの主義主張は留まるところを知りません。
基本的に僕達職員はご入居者様に反論できないことを知ってか、ホームの経営に乗り出してきたグループがいらっしゃるんです。
ようは、経営者がダメダメだから私達が変えてあげるって錯綜した考えです。
これまでも、ご入居者様のご意見ご要望は重く受け止めてきましたが、やはりずっとイエスマンしていると歯止めが効かなくなり何を要求しても僕達職員が叶えてくれると思ってしまう。
元官僚のBさんは、週1回開かれる管理職会議への出席を要求。
ご入居者様の個人情報が飛び交う会議なのでNGとお伝えすると、個人情報を伏せればいいじゃないか!とのご主張。
元首相であっても職員が参加する会議や研修へは、不可!!と温和な施設長が珍しくキレる。
それがいけなかったのか、今度は、食堂のメニューや各種サークル活動の値段が高いと難癖を付け、勝手に他の入居者の多数決を取り、経営陣に値下げを要求。


クレーマーは一般的に金品を要求するけど、この人たちは相手が困っているところを見ては「次はどこを責める?」と夜な夜な会議を繰り広げてる、正直付き合いたくない層のご入居者様ですね。
退職して人生にやりがいがないのは分かりますが、もう少し有意義に過ごして欲しいものです。

老人ホームで感じる悲しみはいずれやってくる人の死
介護の世界に入る前は、人の死と言えば、親や、同僚の死ぐらいしか経験できません。
でも、老人ホームは終の住処として入居してくるご入居者様ばかりです。
いずれやってくる死は絶対に避けられません。
おそらく、実の両親以上に長い時間を共有するご入居者様。
個人的に仲良くなればなるほど、死は身近なものになります。
旦那さんと娘さんを旅行で亡くされたFさん。
3人が乗っていた車が崖から転落して、トラウマで車の騒音が聞けなくなったんだ。
彼女は自分だけが奇跡的に生き残った後悔から、お部屋から一歩も出ることができなくなってしまいました。
何かの拍子に、同じ時期に同じ地区に住んでいたことが判明し、一気に意気投合。


そんなご婦人と僕はふとしたきっかけで出会ったんだけど、その日から彼女のお部屋への往復が始まったんだ。
やれ植木に水をやってくれ、やれ売店で氷を買ってきてくれって、コールが鳴る。
緊急コールが鳴る度、「一ノ瀬君をお願い」って指名され、何か一大事かと駆け付ければ、顔が見たかっただけとホッコリ。
亡くなった娘さんは僕とほぼ同年代だったらしく、「生きていればあなたぐらいよね」と涙される。
どんなに忙しくても駆けつける。
時には、まるで本当の親子のように喧嘩する。
周りからは「Fさんと養子縁組したらエエのに」って囃し立てられて、悪い気もしなかったけど、希望で入れていた長期休暇の後、僕はFさんが亡くなったと知らされた。
危篤状態に陥ったFさんは、「今日あの子、初めての海外旅行を楽しみにしてたから連絡しないであげてね」って言ったそうです。

こんな切ない体験をしたから、僕はご入居者様と距離を取ったのかといえば全く逆。
「こんな僕でも息子と頼りにしてくれるんだ」って思ったからこそ、今でも本当の親とご入居者様と接するスタイルは変えていません。
老人ホームで感じる楽しみは季節ごとに行われるイベント
老人ホームで楽しいと感じるのはやはり季節ごとのイベントですよね?
年末年始のカウントダウンパーティや、春の恒例行事お花見旅行。
夏にはビヤガーデンをオープンしたり、秋には職員とご入居者様総出で行う文化祭。
僕は事務職だから大概、事務所で待機なんだけど、ご入居者様の指名が入ればもれなく出動です!!

そそ、とある夏のイベントで、孫たちに自然のカブトムシをプレゼントしよう!!って企画が持ち上がったんだ。
普段は立ち入り禁止だから入れない裏山を開放して、巨大な虫取り装置を作成。
山道は危険だから当初は職員だけでって話だったのに、何故か「若いもんには負けん!!」ご入居者様が出張ってくる。
80すぎた老人が少年に返る瞬間ですよ!!
ものの見事に、1夜にして数十匹のカブト虫やクワガタ虫を捕獲して意気揚々としてたら、裏山おもしろいよなって悪ノリが始まったんだ。
何故か裏山同好会なる秘密の集まりが結成され、やれ俺らの少年時代は裏山でこうしたあーしたって話から始まり、お決まりの若かった頃はの武勇伝。
週末には職員の目を盗んで裏山に集合しては、昔話。
戦争に行った人の話、行かなかった人の話、空襲の日の話、戦後日本のひもじさ…。
普段はよぼよぼで杖ついているご入居者様が、意気揚々と昔話してる様は超輝いていたけど、やっぱり終わりは来るものです。
とあるご入居者様が、山道で躓いて足を骨折。
そこから芋づる式に参加者がバレ、僕も御用。

(もちろん反省文は書きました)

ハマること間違いなし!有料老人ホームの喜怒哀楽

- 喜びは「ありがとう」の一言
- 怒りはワガママすぎる老害
- 悲しみはいずれやってくる死
- 感じる楽しみは季節ごとのイベント
その後も、こっそり梅田に繰り出したり、海釣り同好会を作ってみたり、人生の大先輩方と少ないながらの楽しみを共有できたことは僕の財産。
人数が増えて昔みたいに無茶はできないけど、僕は僕なりの接し方をしていくつもりです。
不良職員と呼ばれても負けない一ノ瀬でした。